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税務の勘所Vital Point of Tax

税理士が当事者となった最近の訴訟事例 ~その2~

2017/08/16

破産した会社の確定申告手続を行っていた税理士に、粉飾決算や内容虚偽の確定申告書類等交付の責任はないとした事例(東京地裁 平成28年3月25日判決/被告税理士勝訴)

(1)事案の概要
 本件は、原告Xが継続して紙類を納入していた訴外株式会社(以下「訴外会社」といいます。)について、破産手続が開始されたことから、Xの売掛金債権が回収困難になったとして、訴外会社の行っていた粉飾決算及び訴外会社の代表者がXに虚偽内容の確定申告書類等を交付したことについて、訴外会社の役員の責任を求めたほか、訴外会社の確定申告手続を行っていた税理士である被告Yについては、不法行為(民法709条)に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案です。裁判所は、Y税理士が粉飾に関与していた事実は認められず、また、不正を見抜けなかったことに過失はないとして、Xの請求を棄却しました。


(2)裁判所の判断
①Y税理士の粉飾(1)への関与(否定)
 まず、粉飾の手法(1)ですが、ある期には、未収入金を大きく減らし、同額を現金・預金に加算する方法がとられていました。翌期には、役員借入金を4000万減らし、資本を同額増やしたこと以外は、現金・預金の金額を短期貸付金に、受取手形の金額を未収入金に、短期貸付金の金額を受取手形に、未収入金の金額を現金・預金に入れ替えていました。


 そして、Xに交付された法人確定申告書類は、ある期においては、上記で指摘した部分について、字体が他の数字と微妙に異なっている上、「、」の形が明らかに他の科目と異なっており、別のワープロ等で打ち出した数字を貼り付けるなどして作成したものであると認められるものでした。また、翌期では、「現金及び預金」「受取手形」「短期貸付」「未収入金」については、金額欄の数字の位置が少しずつずれており、前記のような入れ替え操作を行った際に、他の部分の数字を切り取って、別の部分に張り付けたものと推認されるものでした。

 このように、訴外会社の代表者からXに交付された書類に施された粉飾は、実際の操作自体は、単純なものであり、貸借対照表の改ざん作業自体が手作業で行われた可能性が高いものでした。そうすると、これが実際に申告書類を作成し、そのデータを持っていたY税理士の関与の下で行われていたとは考え難いと判断されました。

②Y税理士の粉飾(2)への関与(否定)
 
次に、粉飾(2)ですが、訴外会社の代表者が、Y税理士に対し、仕入割戻額を偽って伝えるという方法で行われていました。裁判所は、Y税理士に、粉飾(2)を見抜けなかったことについて過失があるかについて検討し、これを否定しています。


 訴外会社の未収入金は平成19年から急速に増加していたところ、Y税理士は、本当にこのような未収入金が存在するのかについて疑問を持ち、未収入金が回収できない理由について代表者に確認しました。すると代表者は、リーマンショックとそれに続く不景気により製紙メーカーの経営も悪化し、仕入割戻しを実行してもらえないといった説明をしていました。裁判所は、「このような説明自体は不合理というほどのものではなく、このような説明を信用したことに過失があるということはできない」と判断しています。

 また、訴外会社の代表者は、未収入金が存在することについて、X名義の書類を偽造してまでY税理士に交付していましたが、「一見して偽造されたものであることが明らかであるといった特段の事情があればともかく、訴外会社の代表取締役が、よもや偽造書面を交付していることまでをY税理士が疑うべきであったとまではいうことはできず、また代表者が手を加えた書面は、一見すればX発行にかかる書類のようにも見えるのであり、その内容を信じてY税理士が、未収入金の存在を信じたとしても過失があるとはいえない」「未収入金については、仕入値引割戻しという性質上、常に書面や伝票に反映されていないとしても不自然ではない」「Y税理士としては代表者に確認するしかその存在を確認する方法がなかったものであり、税理士という立場からいきなりXに問い合わせることは難しかったというのも得心できないわけではない」などとして、「訴外会社の未収入金の急増から未収入金の実存について不審の念を抱く契機があったとしても、代表者による虚偽の説明や偽造された書面の交付があったことにより、Y税理士がそれ以上の疑問を抱かなかったことはやむを得ないというべきである」として、Y税理士の過失を否定しました。

 解説/内田久美子 弁護士

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